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身近なSNSがきっかけになることも 国際ロマンス詐欺の実態

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    • ブログ2022.09.02

      最近ではインターネットの中で出会い、恋人や結婚相手も探せることが当たり前のようになりました。でも、メッセージのやり取りだけで関係を深めた相手が、そもそも実在しない人物だったとしたら・・・。私たちが日常で使用している「S N S」が悪用され、外国人を名乗る相手から現金をだまし取られる詐欺被害がいま相次いでいます。“国際ロマンス詐欺”とも呼ばれるその手口とはいったいどのようなものなのでしょうか。

      ほんの少しの時間の隙間と心の隙間

      群馬県在住、40代女性経営者のA子さん(仮名)は2022年の2月から3月にかけて、Instagramで知り合った自称韓国在住の会社経営者と名乗る人物におよそ現金400万円をだまし取られました。

      「当時はコロナによる自粛期間中ということもあり、時間があったということと、人に会えない寂しさがどこかにあって、いつもならスルーしていた知り合い以外からのInstagramのD Mに気付いたら返信していました。(A子さん)

       

      アプローチしてきた相手は、自称韓国で縫製工場や貿易業を営んでいること、年齢は30代だということです。のちに送ってきた自撮り写真にはさわやかな笑顔と引き締まったボディが魅力的なアジア系の男性が写っていました。また、豪勢な手料理の数々や仕事の様子、海外を訪れた際の写真を送り、A子さんに経済的に余裕のある暮らしぶりをアピールしていました。

       

      最初は警戒していたA子さんもマメに連絡をくれる男性に次第に安心感を抱き、Instagramとは別のSNS(L I N E)の連絡先を交換しました。L I N Eに移行してからはさらにメッセージのやり取りが増えました。多い時は1日に400通を超えるメッセージをやりとりするようになり、初めはお互いの近況報告が中心でしたが、しだいに、A子さんへの気遣いや愛情表現の言葉が増えていったといいます。

      「私のそばにいてほしい。毎日2人の幸せについて話しましょう。」

      「ずっと一緒にいたいから。冗談ではありません。私はとても真剣です。」

      「あなたは私の将来の妻だから。」

      「私のそばにあなたがいなければとても不幸に感じます。」

      「私のそばにいてほしい。」

       

      「相手の男性からは何度も『私たちは一緒に暮らすパートナー』だと言われ、最初は驚きましたし、冗談だと思っていました。でも何度もそのようなメッセージが来ると『もしかして本気で言っているの?』という気持ちになりました。実際に私と一日中L I N Eをしているはずなので他にも女性がいるとは考えづらく、私だけを見ているかのような素振りも信じてしまっていたと思います。」(A子さん)

      このように思いやりを示すこの男性に、A子さんは、戸惑いながらも少しずつ、この男性と暮らす未来像を思い浮かべるようになっていました。

      ビジネスにおいても私生活においてもパートナーとなり得る人物を演じる

      当時の私はコロナ禍による経営不振や自粛疲れで公私共に寂しいというか…心細い気持ちがあったと思います。(A子さん)

      そんな矢先、ふとした会話からA子さんのお金の悩みを打ち明けたところ、相手から「あなたを助けてあげる」といってデジタルファイナンスという投資らしいものを紹介されました。それはまだ日本にはない安全な投資をしないかという誘いでした。その男性はみずからもその投資によって利益を上げているかのような説明をしました。

      そして、同時に将来設計についてのメッセージも毎日のように交わしました。男性は縫製工場を経営していて、そこで「A子さんのためにデザインした洋服を作らせている」と素敵なデザイン画や作成途中の洋服の写真も沢山送ってきました。A子さんは半信半疑ながらも自分のために洋服のデザインをしてくれて出来上がりを楽しみに待つようになりました。

      また、A子さんの事業についてのアドバイスも男性にしてもらい、経営も安定するのではないかという期待もあったそうです。

       

      彼と一緒に投資で得た利益で今ある借金も返済できて、仕事もプライベートも彼がいれば全てうまくいくのではないかという淡い期待を抱いていたのだと思います。(A子さん)

       

      今思うと・・・あっという間の出来事でした

       

      「L I N EのI Dを交換してからは、毎日何百通もメッセージのやりとりをしていました。当時は急速に親密になり、なんでも話せるような間柄になった気でいましたがたった2週間で415万円も振り込んでいたことに自分でも驚いています。」(A子さん)

      今回の一連の出来事を時系列でまとめると、最初のきっかけとなったInstagramのD Mは今年の1月中旬ころからはじまっています。そのおよそ1ヶ月後のバレンタインデーのころL I N EのI Dを交換してからやりとりの回数が急増します。多いときは1日に400件を超えるL I N Eの履歴がありました。L I N Eでやりとりをはじめて1週間ほど経過したころ初めて現金の振り込み(5万円)をしています。そこから立て続けに30万円、100万円、170万円…と振込を続け3月上旬には振り込み総額が415万円にもなりました。つまりL I N EのI Dを交換しておよそ2週間の間で415万円もの現金を振り込んでいたことになります。

      恋愛感情につけ込んで大金を振り込ませたと感じるかもしれませんが、それだけではないようです。実はA子さん、最初から詐欺を疑っていたと言います。詐欺の犯行には巧みな心理的攻撃もあるようです。

      「振り込むしかない」と追い込まれる心境に

      「ターゲットにされたら簡単に逃げられないと思いました。お金がないと伝えても、『あなたならお金を用意できます。お金が無いなら、借りればいい。利益が入れば必ず借金は返せるから安心してください。この、ノード※は今、一番いいときだから早く入金して!お金が借りられないなら、あなたが今持っている資産を売れば良い。車や家を売れば良い。売っても、私が日本に行ったら私が所有している東京の家に一緒に住めばいい、車もあげるから安心して。』と何度も何度も執拗に迫られ、お金を用意するしかないという心理状態に追い込まれてしまいました。」(A子さん)

      ※この会話内で使われている「ノード」とは投資情報のような意味で使われています。

      このようにA子さんは最初からお金がないからといって投資には前向きではありませんでした。度重なる相手からの説得に、「では5万円だけ」と最初に振り込みましたが、その時も「これ以上の資金確保は無理」ということを相手に伝えていました。しかも振込先は日本人と思われる個人名の口座。振り込みにも躊躇しましたが相手に押し切られ振り込んでしまいます。(銀行での振り込み手続きの間もずっとL I N Eのやり取りをして。)しかし振り込んだ50,000円が翌日には55,393円に増えて振り込まれたのを確認して、考えが少し変わったといいます。「こんなにすぐに現金が増えて返ってくるのなら一時的な資金をもっと用意できるかもしれない。」そう思ったA子さんは自分の借金もあったため、その後は男性に言われた通りに振込を続けていきました。しかし、お金が相手の投資会社からきちんと振り込まれたのは最初の2回だけだったといいます。

      男性からの振り込み要求額はどんどん上がり、A子さんは毎回「そんな大金用意ができない」と何度も伝えますが上手くはぐらかされ、ときにはわかったそぶりをみせ、再度振り込みの要求をするなどあり、状況を理解してもらえないことにA子さんはどんどん疲弊していきます。そしてすでに大金を振り込み、それがまだ手元に戻ってこない状態です。資金を戻す方法も男性頼りだったため、男性との関係が悪化することも恐れ、資金集めに奔走することになります。

      振り込ませるための悪質な手口とは

      「最初に振り込んだ5万円と30万円はその翌日には利益分も含め即入金されました。しかしその後振り込んだ100万円以降、振り込んだ元本含め、戻ってこなくなりました。」(A子さん)

      最初に異変に気付いたのは、振り込んでいた100万円について「2月28日に100万円の着金確認ができる。」と聞いており、何度もそのことについて確認をしていたのにも関わらず当日記帳をしてみたら振り込まれていなかったことです。その日も新たに投資会社に振り込みをする予定でしたがそれはその100万円が入金になることを見越してのことでした。予定が狂いとても焦ってしまったA子さんはすぐさまそのことを男性に問いただします。すると相手は冷静に「15日間の待機期間ののち全額引き出すことができます。」と言ったのです。A子さんは何度も確認したのにそんな話しは寝耳に水でした。そんなやり取りもありA子さんとしては男性の勧める「デジタルファイナンス」と呼ばれる投資から早く手を引きたかったといいますが、すでに振り込まれている大金を取り戻すためにも、ここで止めるわけにはいかない、そして男性との関係を悪化させたくない思いから振り込みを続けました。A子さんは投資に必要なスマートフォンの操作の手順の全てを男性に教えてもらっていたので1人では投資のトレードに必要な操作も、預け入れた現金を引き出すこともできない状態だったのです。男性とお金の両方を失う恐怖がA子さんを襲います。

      それによりA子さんも正常な判断ができなくなっていたのかもしれません。実際に、銀行で積み立てていた預金170万円を出金した際にも銀行員から「国際ロマンス詐欺ではないですか?」と聞かれたそうです。A子さんは内心ドキリとしましたがそれを否定してそのまま出金し、投資会社に振り込んでいます。

      ようやく現金を引き出せると思ったら

      その後、A子さんは男性に対する不信感は拭えないまま、やり取りが続きます。そしてある日、すでに振り込んだお金を早く引き出すよう強く要求すると「明日出金手続きを教えます。」と男性から意外な返答がありました。一抹の不安を感じながらも、一刻も早く出金手続きを終えて自分の銀行口座にお金を戻したいA子さんは翌日、男性の指示通りに投資会社のサイトから出金手続きの申請を行います。そこで表示されたメッセージが“税金納付基準に達しました”というものでした。現金を引き出すには200万の保証金が必要で、そこから納税し、税金を払い終えれば残りの補償金は返却され、現金も即日振り込まれるというのです。しかもその保証金の振り込み期限は3日間。とても用意ができる金額ではありませんでした。その後A子さんの投資会社の口座は凍結になりお金を引き出すこともできなくなったといいます。その時になり「これは詐欺なのではないか」と思い警察に相談するに至ります。その後も投資会社から振り込みの要求が続きますが警察から「振り込んではいけない」と言われそのままにしているそうです。振り込んだお金は現在もかえってこないままです。

      コロナ禍での被害急増 なぜ?

      ネットを悪用した「国際ロマンス詐欺」、実はそんなに新しい手口ではありません。過去の報道などによりますと、2011年ごろにはすでに確認されていました。しかし、その被害件数はここにきて急増しているようです。

      国民生活センターなどのまとめでは、マッチングアプリや婚活サイトを入り口にした国をまたぐ投資詐欺の相談件数は、新型コロナの感染拡大と時を同じくするように2020年度、84件に急増しました。さらに2021度は11月末の時点ですでに166件と、ここ2年の間に30倍以上に増えています。

      だます側が実際に海外にいるかどうかは分かりません。ただ、国際恋愛を装えば、今はコロナ禍で渡航制限を理由に直接面会することを避けられる上、“言葉の壁”があるのをいいことに詐欺を見破られにくいという側面はあるのかもしれません。

      マッチングアプリの利用者は恋愛を目的としていますから、国際ロマンス詐欺を仕掛ける側からすれば格好の標的となっているといえます。被害に遭うのは女性だけでなく、男性も同じです。そしてこの入口が最近はマッチングアプリや婚活サイトだけでなく今回のようなS N Sをきっかけとしたものも増えてきています。誰もが利用するS N Sで現実に起こっている事件なのです。

      利用者にできることは?

      1つは、アプリで知り合った相手のプロフィール画像のチェックです。相手が他人の画像を使い回している可能性もあります。偽りがないかどうかはネットの画像検索で確認できるということです。例えば、グーグルやヤフーなどの検索エンジンではそういった画像から検索できる機能を提供しています。

      2つ目は、ネットで知り合った相手とじかに話す機会を持つことです。「海外にいる」と言われてもテレビ電話機能などを使って相手の声を聞くだけで、うそをついていないか、実在する人物なのかどうか何らかの感触を得ることが出来るはずです。実際国際ロマンス詐欺の多くがやり取りはS N Sなどのテキストメッセージのみで、電話やビデオ通話はしたことがないケースが多いそうです。

      今回のA子さんの場合は一度だけ、数秒ほどですが電話で相手の男性の声を聞いたことがありました。外国人だと思われる声ですぐに切られてしまい会話はしていないそうですが、当時は詐欺だと気付く前だったので声が聞けたことで気分が盛り上がってしまったといいます。

       

      新型コロナへの懸念が払拭されない中、SNSは人と人をつなぐコミュニケーションツールとしてさらに普及が進むとみられています。

      そうなれば、運営会社にはいっそうの対策が求められることになりそうですが、S N Sの利用者自身もリスクをはらんでいることを十分認識した上で活用していくことが必要だとあらためて感じました。



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